『映画めんたいぴりり』は地方発の貴重なフィルムだ
映画めんたいぴりり
テレビ西日本制作の『めんたいぴりり』が2013年テレビドラマとして放映され、好評につき『めんたいぴりり2』が2015年に放映された。
第30回ATP賞・奨励賞、第51回ギャラクシー賞・奨励賞を受賞し、地方発の連続ドラマとしては異例の大きな評価を得た。
この評価を受け、映画版『映画めんたいぴりり』が、この度の公開となった。
映画版のキャストは、ほとんどがTV版を引き継ぎ、博多華丸と富田靖子が夫婦の役を演じて見応えある映画に仕上がっている。
主人公のモデルとなった川原俊夫は「ふくや」の創業者で、辛子明太子を日本で初めて製造・販売し福岡県を代表する食産品に育て上げた人物であり、NHKの「朝ドラ」のような作品だったと想像される(ドラマ版は未見)。
映画版は、昭和30年代のめんたいこ造りに夢中となる華丸家族とその周辺が描かれるが、戦争体験が通奏低音となっている。息子の同級生である豊嶋花が両親を亡くし親戚の家に引き取られているが、遠足に行くための新しい靴やリュックサックが買えない状況であり、華丸が「あしながおじさん」として「めんたいこ」の味が幸せをもたらすと少女を助ける。
めんたいこ愛が、家族や従業員、更には「ふくのや」のめんたいこ味を盗もうとする柄本時生に対しても、めんたいこが普及するならと大量に譲渡し、笑顔でこたえる。華丸演じる主人公は、戦争という修羅場を経験しているからこそ、他者に対する愛、食べ物への愛にこだわる。
昭和30年代の博多が舞台である『映画めんたいぴりり』は、地方発の温かいお話である。もはや今の日本に失われた世界を想起させる。その意味では貴重なフィルムとなっている。
ツルゲーネフを19世紀ロシア文学の中で正当に評価しよう
父と子
ツルゲーネフ著、工藤精一郎訳『父と子』を時間がかかりながらも、読了した。
ツルゲーネフの代表作と評価されているのも首肯できる。
アルカージーが、友人でありニヒリストでもあるバザーロフとともに、父ニコライ・ペトローヴィチのもとへ帰郷するシーンから物語は始まる。
『父と子』について、ナボコフは次のように最大の評価を与えている。
『父と子』はツルゲーネフの最良の長編であるのみか、十九世紀の最も輝かしい小説の一つである。ツルゲーネフは自分が意図したことを、すなわち男性の主人公、一人のロシア青年を創造するという仕事をうまくやってのけた。・・・(中略)・・・ザハロフは疑いもなく強い人間であって、―もし三十過ぎまでいきていたら、この小説の枠を超えて偉大な社会思想家、あるいは高名な医者、あるいは積極的な革命家になったかもしれない人物である。だがツルゲーネフの資質と芸術には共通した弱さがあった。つまり自分が考えだした主人公の枠内で、男性の主人公に勝利を掴ませることができないという弱さである。・・・(中略)・・・ツルゲーネフはいわば自らに課した類型から登場人物を救いだして正常な偶然性の世界に置く。(p172-173『ナボコフのロシア文学講義上』)
ニヒリストであるバザーロフは、ロシア十九世紀の突出した人物造型がなされている。確かに20世紀以降ではやや奇異な人物にみえる。
バザーロフは、アルカージーの伯父パーヴェル・ペトローヴィチと、父の愛人フェニーチカを巡って決斗に至る。パーヴェルの負傷に終わる。
アルカージーと、友人バザーロフは、美人の未亡人アンナと妹カーチャの住む家を訪ねるシーンは、『父と子』の中で唯一ロマンティックな読みどころとなっている。
バザーロフは、唯一恋らしきものを感じたアンアに介抱されながらも、パンデミックに侵され死亡する。
アルカージーは、妹カーチャと結ばれる。父ニコライ・ペトローヴィチは、愛人フェニーチカと再婚にこぎつける。
物語の終わりに蛇足が置かれ、その後の登場人物たちの生活が綴られる。読む者は、ほっと一息つく。
しかしながら、『父と子』は早すぎたニヒリストの物語であった。
「鈴木家の嘘」は、予想範囲内の出来だ。
野尻克己監督『鈴木家の嘘』(2018)を観る。
父・岸部一徳、母・原日出子、長男・加瀬亮、長女・木竜麻生の家族。引き籠りの長男が自殺したことで、ひきおこされる家族の混乱を、一種のユーモアを交えてに描かれる。しかしながら、冗長さは否めない。この主題で133分は長い。つまり余計なシーンや、カットできるシーンが多い。90分あれば十分。監督の主観で引き延ばすのはよろしくない。
加瀬亮に対する家族の誰もが罪の意識を持つが、それが徐々に明かされて行く。その過程自体は説得的だが、あらかじめ予測できる範囲を超えていない。
監督第一作ということでの力みがあったのではないか。長女役の木竜麻生が印象に残った。
P.G. ウッドハウスを読む
年末から、2005~2007年にかけて発売されていた国書刊行会と文藝春秋版の文庫版・P.G. ウッドハウスのジーブスものを読む。文庫本は、2011年刊行。
気楽に読むことの楽しさ、それ以上でも以下でもない。
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2019年、平成最後の正月は
年賀状が届いた。高校時代の友人N君が、肝臓ガンと診断され、余命半年との記載あり。抗がん剤を使用せず、1年経過後、通常の生活をしている。もちろん.、本人の意思である。見事な生き方。己を顧みて・・・言葉がでない。
未読了の図書2018
2018年に購入して、一部読みかけの図書、読み終わっていない図書・10点を記録しておきたい。
1.長谷川郁夫『編集者 漱石』(新潮社,2018.06)
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2.東京女子大学丸山眞男文庫編『丸山眞男集 別集 第4巻 正統と異端一』(岩波書店,2018.05)
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3.西垣通『AI言論ー神の支配と人間の自由』(講談社,2018.04)
4.福尾匠『眼がスクリーンになるとき ゼロから読むドゥルーズ「シネマ」』(フィルムアート社,2018.07)
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5.マルクス・ガブリエル著,清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』(講談社,2018.01)
6.兼本浩祐『なぜ私は一続きの私であるのか ベルクソン・ドゥルーズ・精神病理』(講談社,2018.10)
7.高山宏・巽孝之共著『マニエリスム談義 驚異の大陸をめぐる超英米文学史』(彩流社,2018.04)
マニエリスム談義 驚異の大陸をめぐる超英米文学史 (フィギュール彩 100) [ 高山 宏 ]
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8.キャシー・オニール著,久保尚子訳『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』(インターシフト,2018.07)
あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 / キャシー・オニール 【本】
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9.瀧井敬子『夏目漱石とクラシック音楽』(毎日新聞出版,2018.03)
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中途半端なコメントは控える。リストアップのみとしておきたい。
小生の関心の狭さを反映していると言えば、恥ずかしい限りだが、読了出来ていないことこそ問題だろう。読めないものを買うな、とのお叱りをうけそうだが、これが現状である。読書力の衰退を痛感した2018年であった。
年末・年始は、俵万智の『牧水の恋』とウッドハウス作品数点を読む予定。
◆「はてなダイヤリー」が2019年春に終了とのことで、2019年1月から新しい「ブログ」へ移行します。